炎症というのは、身体の中で起こっている異常状態に対する正常応答、いわば防御反応である。
炎症がうまく働くと異物が追い出され、傷ついた細胞が修復され、生体は元の状態に戻る。これは一過性であり「急性炎症」と呼ばれる。
ところが、炎症がくすぶりつづけ、だらだらと何週間も何ヵ月も、あるいは何年もつづいて止まらないようなものは「慢性炎症」と呼ぶ。
炎症の典型的症状は発赤、腫脹、熱感、疼痛の四つであるが、慢性炎症ではこれら四徴候が必ずしも確認できるとは限らず、気がつかないうちに炎症が進行してしまうことがある。
慢性炎症が問題視されるのは、これが「万病の元」になっているという考えがあるからだ。むしろ、この考えが一般的になりつつある。
炎症性サイトカイン
慢性炎症では、まず炎症という刺激により「炎症性サイトカイン」と呼ばれるタンパク質が炎症組織でつくられる。そして全身に広がっていき、離れた細胞にもその影響が伝わっていくのである。
サイトカインとは、細胞同士が互いにシグナルをやりとりするときに使う一群のタンパク質である。サイトカインが細胞から放出されて相手の細胞膜の上にある受容体タンパク質(レセプター)に結合し、相手の細胞にシグナルを伝える。それによって炎症の影響が他の組織に広がっていくとされている。
サイトカインとサイトカインレセプターががっちりと合致すると(鍵と鍵穴がカチッとはまると)、シグナル伝達経路が活性化されて、細胞内部にシグナルが伝達されることになる(図1)。
サイトカインには何十種類もあるが、とくに炎症時につくられるものを炎症性サイトカインと呼び、TNF‐α、インターロイキン6(IL‐6)、インターロイキン1(IL‐1)などがある。抗ウイルス作用をもつインターフェロン(IFN‐α、IFN‐β)も炎症時につくられる。
宮坂昌之先生(大阪大学大学院特任教授)の説明によると、これらのサイトカインは身体に異物が侵入してきた際の警報役として機能しているもので、正常時にはほとんどつくられていないか、微量しかつくられていないという。
しかし、異物の侵入とともにサイトカイン産生が始まり、細胞外に放出されるようになる。それが適量のときには周りの細胞に警報を発して細胞の感受性を高め、異物侵入に対するための準備をさせる、いわばスタンバイの状態にあるといえるだろう。
ところが、炎症刺激が強過ぎたときや、刺激が持続するときには炎症性サイトカインがつくられ過ぎてしまうために、かえって炎症の火の手を強めることになる。つまり、単なる警報では済まなくなってしまうのである。
炎症性サイトカインは、血管に働いて血管の透過性を高める(白血球が通り抜けやすくする)とともに、白血球に働いて炎症巣(炎症を起こしている場所)に白血球を呼び込む役目をもっている。さらに、周囲の細胞にさらなる炎症性サイトカイン産生を促すようになる。こうして炎症性サイトカインが必要以上につくられると、局所に起こる炎症の影響が他の場所にも及んでくることになる。
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