二十代の双子の女性を対象に、片方が肥満で、もう片方がそうでない4組の女性たちの腸内細菌を調べた研究がある。
大方の予想どおり、双子のうちの痩せている人の腸は健康な細菌が豊富で、ビフィズス菌やラクトバチルス菌といった善玉菌が多い状態であった。もう一方の太っている人の腸は腸内細菌の多様性が低く、炎症性の細菌が多かったのである。
次に、研究チームはこの4組の双子たちから採取した八つの便サンプルをランダムに分けて無菌マウス*の腸に移植し、どうなるかを調べた。
*無菌状態での帝王切開によって生まれてから、実験に使われるまで、ずっとケージに隔離されて育てられているマウス。
結果はじつに明快なものだった。
太っている人の便サンプルを移植したマウスは短期間のうちに16%太り、しかも炎症性の内臓脂肪が増えたのである。
さらに実験はつづいた。便移植後のマウスを同じケージ内で飼うことによって、腸内細菌がマウスの間で移動することにより相手のマウスが太る(あるいは痩せる)ことがあり得るのかを調べたのである。
マウスにはもともと自分の糞を食べる習慣があり、同じケージに入れられている仲間の糞を食べることもあることから、このような実験が行なわれたのだ。
その結果は、腸内に健康な細菌がいる痩せマウスは、肥満マウスの細菌が入ってきても太らなかった。そして有毒な細菌をもつ肥満マウスの腸に痩せマウスの細菌(とくにバクテロイデーテス門)が入ってくると、肥満や炎症が完全に抑えられたのである。
さらに興味深いことには、肥満マウスに高脂肪・低食物繊維のエサを与えていると、痩せマウスからの健康な細菌の移行が妨げられ、肥満マウスはやはり太ったのである。
反対に、肥満マウスに低脂肪で野菜が多いエサを与えると、健康な細菌の移行が助けられて、肥満の原因になっている腸内細菌が増殖しにくくなったことが報告されている。
ところで、ハーバード大学のタンボー博士らは、食事メニューを野菜中心や肉中心に変更すると、ミクロビオーム(体内常在菌の集合体)は2日以内に一気に変化することを証明したことが報告された。
ところが一方で、各個人の腸内細菌叢はあまり変化がなく、菌交代は年単位でゆっくりと進行することもいわれている。これらの事実は、我々がいかに年間を通じて同じような食べ物しか食べていない、ということを証明しているのだろう。
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